「理由」読了

犯人と思しき人物がうちの旅館に泊まっている、と女子中学生が近所の交番に通報しにくる所から始まる。タイトルと併せて、事件が起きた理由を追う話なのだな、とわかる導入でやはり最初に引き込まれた。
表紙では夜の高層マンションをバックに大きな文字で「理由」とあり、ひとつの大きな理由を追跡するのがメインディッシュになるのかと思えばさにあらず、数々の小さな理由をドキュメンタリィ形式で明らかにしていく。事件発生の第一報が遅れた理由、殺害された被害者達がその場所に居た理由、本来そこに居るはずだった人達が不在だった理由、事件のすべての関係者がどのような生活の末にそこに至った理由、事件の舞台である高層マンションが建った経緯...それらはより細かく小さな理由へとブレイクダウンされ巨大な理由のツリーを(まさに高層マンションのように)形成する。結果として発生した殺人事件は単なる随伴現象にすぎない。
ひとつひとつに異様なリアリティのあるエピソードのついたドキュメンタリィを模しているので「火車」のようにシーケンシャルな物語としては読めず時間がかかった。どちらも消せない過去がテーマの作品だけどアプローチが全然違う。

理由 (新潮文庫)

理由 (新潮文庫)