烏のつもりと鳩の不憫

今朝のこと。
昨日飲んだアセロラドリンクのペットボトルを、捨て忘れて鞄に入れ放しにしていたのが発端。改札を通るために定期を出す時に気付き、普段とは逆側のエスカレータからホームに降りる。そちら側には自販機があるから脇の屑籠に捨てようと思ったのた。
降りながらホームを見渡していると、ふと線路上に動くものがある。烏だ。うろうろ、ぴょこぴょこと跳ね回っている。あれは嘴が太いからハシブトガラスというのだっけ...しかし私が乗る側の線路だというのに石など置こうというんじゃあるまいな。これは注意せねばなるまい...そんなことをぼんやりと考えながらエスカレータを降り、烏の挙動を観察しに行く。近くには駅員もいるが気にかけてなどいない様だ。
しかし烏は石を置く場所を吟味していたのではなかった。線路脇に鳩がうずくまっていたのだ。
ぼさぼさと羽毛が乱れ、鳩本来の落ち着きなさも無く線路の鉄にぴったりと添っている。烏はこいつにちょっかいをかけようとしていたのだ。跳ね回りながらつつこうとする烏に鳩は羽でもって「あっち行け」とばかりに追いやるが、どうも力がない。第一間もなく電車が来るので、その位置では轢かれてしまうだろう。烏のほうは追いやられて柄にもなく素直に引き下がり、少し離れた所で鳩を見ている。鳩もまさか線路脇で卵を守っているわけでもあるまい、たぶん怪我をして動けないのだ。
「ねえ、あれ多分危ないんじゃないですかね、動かないし」と近くの駅員に声をかけてみる。
「え?ああ...あれか。でももう来ちまうな...」駅員は時計を一瞥、トランシーバで何やら連絡している。
正直なところ鳩が轢かれるかどうかで電車をわざわざ止めるかというと、そんな事もないように思う。動けないようならどちらにせよ死ぬし、恒温動物とは言えどちらかと言えば鳥害扱いされているのだ。とりあえず駅員には知らせたので後は任せ、ペットボトルを捨ててくる。
捨てている間に電車が来て、いつも通りの位置に停まった。私が乗るのはこの次の電車だ。

電車が出て行った。鳩の死骸なぞ見る趣味もないが顛末が若干気になる。ホーム端から遠目に見ると、物干竿のようなマジックハンドを持った駅員がもう一人やってきて何やら片付けをしている。やはり轢かれたか...すぐ次の電車が来るので、とりあえずホーム下の側溝に隠しておいて後で片付けるようだ。烏はもうどこかに行ってしまって姿は見えない。

ふと、あの烏はどういうつもりで鳩に近付いたのか?と少しだけ空想してみた。死にかけを喰ってやるつもりだったのならやけに引き際が良い。石を置くような知恵のあるのが烏だから「おい、お前、そこ死ぬぞ」くらいの警告であったかもしれない。対して鳩は阿呆だから「烏め、うるさい、烏め!」と聞かなかったのではないか?そう考えると、何やら童話のようだ。

久しぶりに何か書こうと思ったらこんな微妙な出来事を書くことになってしまった。半年ほど前に折り紙の烏をUPしていたのが最後だったのは偶然で、特に烏が好きというわけではない。鳩の折り紙はまだ折ったことがないな...。