「デッドライン」はSF者向けの小説だった

デッドライン

デッドライン

居間ではSICPを読み、ベッドではGEBを読む。電車の中では文庫とか新書とか軽いA5サイズの本がちょうどいいので「デッドライン」を読んでみた。デマルコの本を読むのは「ピープルウェア」以来2冊目だ。予備知識なく評判だけで買った本だし、副題に「101の法則」とあるから開くまではTIPSを集めたクックブック調の小論文集だと思っていたが、なんと小説だった。
それも文体はまるっきりハヤカワ文庫で、読むのが非常に遅い私でも1週間の通勤(5時間程度)で読み終えてしまった。テーマがプロジェクト管理でもストーリーがあるとこんなに読みやすいものかね。実際語られるべきことは(水増ししても)101項目しかないわけだから、そのために小説ひとつ分のボリュームなら贅沢な書きかたともいえるが。
特に面白くなってくるのが14章でケロノスが登場してからで、設計とデバッグの手法にも言及している。細部まで十分に設計すればバグが減ってデバッグの時間を削れるというものだが、これは今で言う自動ユニットテストにもつながる考え方だ。さらに少人数1つのチームで全ての詳細設計まで行うことでコミュニケーションの時間が省かれ、後半で一気に人を増やしてコーディングしても破綻しない、とあるが、これは出版から8年経った今でも十分に過激な意見だ(しかも理に適っている)。
101番目の法則として「プロジェクトには目標と予想の両方が必要だ」とあるが、これには特に共感した。今まで自分が無意識的に感じていたことを先人が肯定してくれると、なんというか、ほっとする。
ところでハヤカワ文庫調の文体というのはどこから生まれるんだろうか。ハヤカワ調の訳し方があって訳者がそれに従っているのか、アメリカのSF小説家の文体が似たりよったりなのか。SFの原書を読んだことがないからよくわからない。
とりあえず主人公トムキンスの元ネタであるジョージ・ガモフのSFが読みたくなった...けどハヤカワからは出てないのか。これは意外だった。